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その他あれこれ (2)

○フンデルトヴァッサー氏と切手

 これまで多くの国から絵画を取り上げた切手がたくさん発行されています。切手コレクターの間に「美術切手」とか「絵画切手」というジャンルがあって高い人気を得ており、それに対応して多くの絵画切手、美術切手が発行されています。日本でも「東海道五十三次」を取り上げたシリーズや、毎年、「切手趣味週間」に因んだ絵画切手が発行されています。
 氏が描いた絵を取り上げた切手もたくさん発行されているのですが、他の多くの画家の絵画切手と違っているところがあります。それは、氏が切手用に原画を描いたものが多くあるということです。単に、氏の原画が使われているだけではなく、切手に使われることを想定して絵が描かれたものが多くあるということです。使われている絵が切手用に描かれたものかどうかは、発行国を示す国名や切手の額面を示す数字が絵の一部として描かれているかどうかを見ればわかるのですが、そのようにして見ると、氏が切手用に原画を描いた切手というのが多いことが分かります。
 ではなぜ、氏は切手用に原画を描くことに興味を持ったのでしょうか。ネットで氏と切手に関する情報を探してみましたら、数件の情報が見つかりました。
 その一つは、若い頃の体験です。複数の資料が、氏はその父から切手のコレクションを相続したと言っています。一つの資料では、それで切手に興味を持つようになり、それが後年切手用の原画を描くことにつながったとしています。別の資料では、第二次大戦終戦後、氏の一家は経済的に困難な状況にあって、氏は父から譲られた切手を売って生活費の足しにしたとしています。「切手に助けられた彼」は、後に切手に自分のUniversal Harmony(世界の調和)というメッセージを託すことで「再び助けられた」と、面白い見方をしています。いずれにしても、若い時代に切手とかかわりがあって、それが氏と切手を結びつけるきっかけの一つになったといえるかもしれません。
 もう一つは、氏が切手に自分のメッセージを送る役割を期待していたということです。1990年に氏が切手について書いたとされる文章がありましたので、孫引きですが以下掲載します。
 「本当の切手というものは、送り手が切手の裏糊を湿らせるときにその舌を感じるのでなければならない。切手は、郵便箱の暗い内部を知らなければならない。切手は、郵便局で消印を押すゴム印を受けとめるものでなければならない。切手は、配達人が手紙を受取人に手渡す時には、配達人の手を感じなければならない。手紙に貼られて誰かの所に送られたのでない切手は、切手とは言えない。切手は遠方から送られるプレゼントとして一人ひとりに届けられる大切なアートだ。切手は、文化と美と人間の創造性を証明するものでなければならない。国民としてのアイデンティティーの最も明らかなしるし、切手は調和というメッセージを届ける最も有効な手段になる。」
 このように氏は切手に対して、自身のメッセージを届けるという役割を期待していたと考えられます。確かに、絵画やポスター、建築物そのものも製作者のメッセージを届けることはできますが、その場に足を運んでもらって見てもらえなければそのメッセージは伝わりません。しかし、切手は同じメッセージをたくさんの人びとに伝えることができます。そのことを期待して、氏は切手制作に携わったのではないかと考えられます。
 氏がその切手によってどのようなメッセージを伝えようとしたのかを想像し感じながら、氏が関わった切手を見たいと思います。